佐治信忠 サントリーホールディングス代表取締役会長

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連結の売上高は3兆円に迫り、資産は4兆円、従業員は数万人単位、それでいて株式上場は一切しない、独自の経営スタイルで日本を代表する企業へと成長したサントリー。そのサントリーを傘下に置くサントリーホールディングス代表取締役会長を務めるのが佐治信忠さん。佐治さんは会長職だけでなく、公共広告機構でおなじみのACジャパンの理事長なども務めるなど、経済界では知らない人はいない存在です。

 

1945年11月25日生まれ、令和元年には74歳を迎える佐治信忠さんは、兵庫県出身です。父親はサントリー2代目社長の佐治敬三さんで、その長男として生を受けます。実際に恵三さんが社長に就任したのは1961年、佐治さんが16歳の時です。
祖父はウイスキーに情熱を注ぎ、父はマーケティングに力を入れるなど、サントリーを成長させていく中、幼少期の佐治さんにはある強烈な体験が。それはサントリーの宣伝部のエースで後に作家となる開高健さんの存在です。マーケティングや宣伝に力を入れていた関係で、開高さんも佐治家に足を運んでは食事などをしていたようです。その中で、開高さんは責任はしっかり果たさなければならないと何度も語るなど、後の佐治さんの礎となる姿を見せていました。

 

1968年慶應義塾大学経済学部を卒業すると、アメリカに留学。帰国後はすぐにサントリーに入社せず、別の企業で会社員を務め、1974年晴れてサントリーへの入社を果たします。その後、1982年に取締役に就任し、1989年には副社長に。そして、2001年、サントリーの社長に就任すると、初の外部社長となる新浪剛史さんにバトンタッチするまで、13年間社長を務めます。

サントリーが大事にしてきたものに、「やってみなはれ」という言葉があります。何事にもチャレンジすることが大切という創業者からの教え、口癖であり、サントリーのホームページには、やってみなはれだけでなく、「やらなわからしまへんて」という言葉まで。やってみなさい、やらなきゃわからないから、そんな意味合いの言葉を佐治さんは大切にし、近年この精神が薄らいでいることに危機感を抱いています。そのためにも、チャレンジしやすい環境作りに力を入れ、多少言葉は荒くても檄を飛ばし続ける、それもこれも「やってみなはれ」精神を社員に発揮させるためです。
佐治さんが「やってみなはれ」精神を発揮したのが新浪さんの起用です。新浪さんもまた慶応義塾大学経済学部を卒業しており、佐治さんとは先輩後輩の間柄。2005年にはローソンの代表取締役社長を務めるなど、ローソンの成長に一役買い、その実績からサントリーの社長として白羽の矢が立ちました。100年以上創業家から社長や会長を出していたにもかかわらず、外部の人間を起用する、まさに「やってみなはれ」の精神ですが、次世代の人材が成長していないという辛辣な思いもそこには含まれています。
2013年、社長を交代する意向を示し、にわかに後任人事への注目度が高まります。当初、創業家からの起用を考えていたものの、この年にアメリカの大手メーカーであるビームの買収で1兆円以上の費用がかかることから、それどころではなくなったと強調。これも「やってみなはれ」精神の1つではあるものの、創業家の人材がまだ頼りないことを突き付けた形になりました。

 

もう1つ大事にしている言葉が「利益三分主義」です。利益の3分の1は社会に還元、もう3分の1位はお客様などに還元、残りの3分の1は事業資金にするという考え方です。利益を自分たちだけで独占するのではなく、社会貢献を通じて成長していく、それがサントリーの基本であり、佐治さんが大切にするマインドです。
佐治さんは本音の論客と呼ばれるほど、その発言はストレートで切れ味抜群。2012年には、経営者は物価を上げなければならないと言いながら安売り競争をし、結局経済は良くならないと発言しています。2019年、物価は上がりながらもなんだかんだ安売り競争が続くなど、その言葉は7年後の今にも通じる言葉です。また景気が悪い時の増税は問題とも語るなど、消費税が10%になることを見据えたかのような発言を行っています。
最後に、佐治さんの父敬三さんへの想いをご紹介します。父は学者タイプだったと語る佐治さん。好きな部分は「なぜ」を5回聞くぐらい理論的なところで、何が何でも成功させてみせる執念を感じたそうで、佐治さんもそれを受け継いでいます。敬三さんが始めたビール事業でサントリーは生まれ変わった一方、なかなかビールで結果を出せず、長い間低迷してしまいます。それを変えたのがザ・プレミアムモルツを世に送り出した佐治信忠さんです。父がやりたかったことを息子が実現させる、それが創業家の物語と言えます。新浪さんが引き継ぎ、自らは会長を務めますが、創業家に再びバトンを渡し、新たな創業家の物語を紡ぎ出すことはできるのかどうか。佐治信忠さんの檄はまだまだサントリーにとって必要不可欠であり、それが必要なくなる時、やってみなはれ精神が従業員にしっかりと浸透したことを示すことでしょう。