尾崎元規 Kao 花王株式会社 会長

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ヘルシア緑茶を始め、多くのヒット商品を飛ばし続け、日用品メーカーとして熾烈な争いを繰り広げ連結売り上げ1兆円を超える花王。その花王で2014年に退任するまで会長を務めていたのが尾崎元規さん。2004年に社長に大抜擢されるなど、会社から厚い信頼を集めていた人物で、現在は公益法人企業メセナ協議会の理事長などを務め、大手企業の社外取締役などを兼務する経済界の重鎮です。

1949年6月6日、令和元年には70歳を迎える尾崎元規さんは長崎県の出身で、実家は陶器商を営んでいました。この実家の仕事の手伝いをしていく中、マーケティングの大切さに気付かされます。地元の高校を卒業すると、尾崎さんは慶應義塾大学工学部管理工学科に進学。この管理工学科では文系と理系が融合されたものであり、システマチックな考え方や情報の大切さを知ります。

 

1972年に卒業すると、すぐに花王石鹸株式会社、現在の花王株式会社に入社します。花王は1887年花王の創業者である長瀬富郎によって創業され、1972年の時点で創業から85年という老舗企業でした。この4年前には現在も販売されている、ドイツで有名だったニベアを日本で製造販売するなど業績を拡大させている状態です。
入社後、尾崎さんは情報システム部に配属され、調査部を経て、希望していた事業部に異動を果たします。この間、企画部のブランドマネージャーや北海道地区の統括を務めるなど順調に出世を重ね、2000年には化粧品事業部長に就任。化粧品部門の中枢に躍り出ることに。

 

それまでに花王は様々な挑戦を行いますが、失敗の連続でした。記録メディア事業、医薬品事業に乗り出すものの撤退、セレクトショップを立ち上げるもすぐに撤退など失敗を続けます。しかし、それだけ多くのチャレンジをしていく中で、洗剤のアタック、シャンプーのアジエンス、ビオレ、クイックルワイパーやヘルシア緑茶など様々なヒット商品を飛ばす他、マーケティングにもかなりの力を入れています。このマーケティングの力こそ、尾崎さんが実家の手伝いをしていく中で感じ取ったマーケティングの重要性が形となっていると言えます。

 

2004年、8人抜きで社長に抜擢されると、尾崎さんはあることを訴えます。機能性の追求だけではダメ、情緒性が必要だということです。例えば洗剤であれば、汚れがよく落ちることが売りですが、昭和の時代ならまだしも現在に汚れがよく落ちる洗剤を出したとして、当たり前であると受け取られます。それよりも消費者のフィーリングが重要であり、情緒が問われていると社内で訴えかけていきます。
その結果、1970年代から売られていたエッセンシャルは2006年リニューアルし、カワイイは作れるをキャッチコピーに若い世代の人気を得ます。すでにシェアは握り、品質にも自信がある中、いかに受け入れられるか、そのための調査を徹底し、シャンプーとしての性質より、髪型が重要視されることに着目し、シェアを大きく拡大させることに成功。技術だけではダメ、そこに人間としての心を入れる、それが尾崎さんが花王社内で言いたかったことであり、社内に植えつけることができました。

歴史のあるものをリニューアルさせることは抵抗を与えますが、尾崎さんが社長の時代に行った最大のリニューアルは花王のロゴのリニューアルです。リニューアル前は、月のマークの左側に花王と漢字で書かれていましたが、これをKaoに変更。この意図は花王がグローバル戦略に打って出るため、その意識を社内的に高めていくため。当時、海外の売上高は2割程度でしたが、これを2020年までに50%にもっていく、そのためにロゴをリニューアルして社員の意識を高め、グローバル企業になるという狙いです。2017年度、連結売上高約1兆5000億円のうち、3分の1がアジアやアメリカ、ヨーロッパでの売り上げ、日本だけで1兆円を売り上げ、海外で5000億円というのが現状です。尾崎さんが描いていた2020年までに50%を達成するには海外でもう少し上積みをする必要があります。


最後に、尾崎さんの座右の銘をご紹介します。「天佑は常に道を正して待つべし」が座右の銘ですが、これは花王創業者である長瀬富郎の遺訓です。努力をコツコツと重ねてようやく神の恵みが訪れ、目標を達成できる、この遺訓にはそのような意味があります。花王の基礎として花王ウェイというものがあり、正道を歩む、誠実であることの大切さを自社が作成した企業リポートで説いています。ちなみに長瀬富郎は若くして相場に手を出し失敗したことで、そのような考えに至ったとのこと。その当時は高い授業料だったかもしれませんが、結果的にその経験は花王を着実に前へ向かわせて成長させ、尾崎さんの心にも突き刺さり、花王ウェイの機軸として一本筋の通ったものとなりました。


現在、尾崎さんは様々な企業の社外取締役を務めていますが、花王時代の経験などを生かす他、自分自身で考え、決断を下すことの大切さを伝えながら、花王を見守り続けています。